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今日も、気ままに フィンランドから

バレエ「ムーミン谷の彗星」初演に行ってきた!

前回の記事で書いた通り、ムーミンのバレエ「Muumipeikko ja pyrstötähti(ムーミン谷の彗星)」の初演に行ってきました!
 
という訳で、今回はそのレポートを。

 
前述の記事の中では、「子どもも楽しめる創作バレエ」的な予想をしましたが、見終わった後の第一印象は、「訂正、大人も楽しめる創作ムーミンバレエ」でした。

 

ここから、公演の内容やら、感想やら、批評?もどきを書いていきますので、今後観る予定の方、ネタバレ注意です。詳しく知りたくない場合は、とりあえず、ここで止めといてください。そして、観劇後にまた戻ってきてくださいね。

 

この創作バレエは、古典バレエの様式に則った全2幕。ムーミン小説『ムーミン谷の彗星』が元になっています。ざっとストーリーをお話しすると、
 
彗星が地球に向かっている、激突するかもしれない、という噂が飛び交い、ムーミン谷の住民たちはパニックに陥る。。。
 
事の真相を確かめるために、ムーミンとスニフはおさびし山の山頂にある天文台に向かい旅立つ事に。
旅の途中で川辺でキャンプをしていたスナフキンに出会い、3人で調査団を結成し、山頂を目指す事になりますが、、、
 
そうする中、彗星は地球にどんどん近づいてきます。
果たしてムーミンたちは助かるのか!?
 
というもの。

 

この原作をバレエ化するにあたっての大きな改変はないようです。最大の挑戦は、ストーリーを知らない人に、いかに台詞なしで、踊りだけで物語を語るか、ということでしょう。

 

会場ではプログラムを4ユーロで販売しており、その中に1幕、2幕のあらすじが書かれているので、それを読めばある程度舞台の展開を追う事はできるでしょう。私もそれを読んで、ストーリーの記憶を呼び起こしましたし。加えて、それを読むことで、「ははーん」とトレーラーで見た踊りやキャラクターなど、納得した部分もありました。

 

まず、この作品に登場するメインのキャラクターですが、

- ムーミントロール 

- 彗星

- スニフ

- スナフキン

- スノークのお嬢さん

- ムーミンママ 

- ムーミンパパ 

- 大とかげ

 

彼等が、ヴァリアシオン、パ・ドゥ・ドゥ、パ・ドゥ・トロワ、あるいは群舞に交じって踊ります。

そこに、何種類もの群舞によるキャラクターダンスが加わります。ここに思い出す限り順不同にリストアップしてみます。

- ムーミンとスニフ

- ムーミンパパとムーミンママ、そしてじゃこうねずみ

- 彗星と北斗七星+2つ星

- ムーミンとスノークのお嬢さんのパ・ドゥ・ドゥ(夢の中で)

- ムーミン、スナフキン、スニフのトリオ漫才

- ニョロニョロの群舞

- 天文学者たちの踊り

- 黄金虫の踊り

- 蝶々の踊り 

- ヘムリンさんの切手コレクション、宙に舞う
- お店のおばさんと勇気の印のメダル授与、そしてワルツ
(ここでスノークのお嬢さんはポワントで踊っていた!)
- スノークのお嬢さんと人食い花
- 大とかげ
- 鳥(物語に登場するのは覚えてるんですが、この鳥は禿鷹だったでしょうか。一瞬『白鳥の湖』のロットバルトかと思うほど、イメージが似ていました。)
- 海馬?(よくわからないのですが、『ムーミンパパ海へ行く』に登場する海馬を思わせるキャラクター。今一度『ムーミン谷の彗星』を読み返さないと。。。)
- アジサシ(という種類の鳥。プログラムによると、「新しい朝」を象徴するらしい)

等々。

 

実は、メインのキャストよりも、コールド・バレエの踊りが最もバレエらしく見応えがありました。というのも、個々のキャラクターは(子どもたちにもわかりやすいように)ストーリーを語る役割を負っているために、踊りよりもマイムが多いのです。

 

舞台装置は少なく、アニメ風の映像でムーミン谷や星空を視覚化。 色彩の印象は、トーベの色使いではなく、アニメ『楽しいムーミン一家』の影響が大きいか?

 

「ムーミン一家とスノークのお嬢さん」の衣装は、、、ムーミンそのものですね(*^^*)俗に着◯◯みと呼ばれていますが、あえてこの言葉は使いません。ディズニーランドでもミッキーはミッキーですね。

日本のネット上の前評判では否定的な声も多かった、このムーミンの衣装ですが、ムーミンのお話は過去にもオペラやモダンバレエになっていますし、個人的にも見慣れていることがあるのでしょう、舞台でも違和感はありません。

 

「彗星」や彗星が従えた「北斗七星+二つ星」は古典バレエならではのクラシックチュチュを着用。特に「彗星」は真っ赤なチュチュが鮮やかです。

 

「スナフキン」や「スニフ」は、あのまんまです。特にスニフは飛んで、跳ねてのヴァリアシオンを見せてくれました。

 

とっても面白かったのは、「ムーミン」と「スノークのお嬢さん」が、夢の中で踊るパ・デゥ・ドゥ。この作品の見せ場の一つです。夢の中、という設定なので、ダンサー二人が素顔でアダージョを踊ります。衣装は真っ白、特にスノークのお嬢さんは、ポニーテールに、エンパイアラインのドレスで清楚さが際立ちます。

 

音楽は、このバレエのために新たに作曲されたオリジナル。実はあまり音楽は印象に残っていないのですが、新聞評によると、古典的ハリウッド映画のようだった、とか。要は、危ない場面ではいかにも危なさそうな音楽を、楽しい場面では、明るく心弾むような音楽、ということなんだと思います。*1

 

この創作バレエを観劇しての率直な感想は、

「まず子どもありき」という明確な創作意図があったんだろう、ということ。

そしてストーリーを語るうえで、マイムの多用、がとても目につきました。

でもね、ちょっと子どもに歩み寄り過ぎた感もあるんですよ。

たとえば、子どもが喜びそうな動物や昆虫を多用したキャラクター設定や、群舞にコミカルな踊りが多用されています。

バレエを堪能したい向きには少々物足りなさが残るかもしれません。

 

加えて、各キャラクターの役作り。何となく演出家/振付家はムーミン小説にあまり馴染んでなかったのかな、という印象がぬぐえません。一つ一つの踊りはとてもよいのですが、全体としてムーミンの世界観や、トーベ・ヤンソンのアート性があまり伝わってきません。特にスナフキン。地球滅亡の危機に嘆き悲しむスナフキンは全くキャラじゃない。これ、とても違和感がありました。

 

実は観劇にあたり、もっと実験的な作品を予想していました。会場も数千人入る大ホールではなく、定員300人ちょっとの小ホールだったので、これぐらいの人数のほうが、実験的作品も発表しやすいのか、なんてね。しかし、ふたを開けてみたら、ひねりなしの直球、そして「子どもバレエというオブラートに包まれた正統派古典バレエ」でした。

 

では、本レポート最後に、衝撃の事実。

このバレエの主役は「ムーミン」?

 

「いいえ違います。」

 

作品を見終わった後の印象、舞台での存在感、ともに圧倒的だったのが真っ赤な「彗星」でした。

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